アナログ補聴器とデジタル補聴器

 アナログ補聴器とデジタル補聴器の違いを簡単に表現しますと、音を電気信号に変換して増幅するのがアナログ補聴器、音を数字に変換して計算するのがデジタル補聴器となります。
もうちょっと具体的に解説いたしますと、音(音波)を電気信号に変換して、電気の波を大きく(増幅)することにより、再び音に変換したときには音が大きくなっているのがアナログ増幅です。これに対して、音を一旦、0と1の数字(デジタル信号)に変換して、各種の演算をした上で再び音に変換するのがデジタル増幅です。

 性能面の特徴を比較いたしますと、
アナログ補聴器は、歴史のある信頼性の高い技術を使用した補聴器です。特に高出力タイプにおけるパワー感のある音質を、デジタル補聴器と比べてお求め安い価格で提供できます。しかし、その仕組みがシンプルな分、音質の向上や雑音の処理などに限界があります。簡単に言うと、聞きたい音を大きくすれば、雑音も大きくなってしまいます。
デジタル補聴器は、補聴器内部に搭載した超小型コンピューターが瞬時に膨大な演算を行い、増幅するだけでなく各種の音響効果を加えることができます。音の種類や音量を判断し、騒音と判断した音を小さく抑え、語音をより鮮明に際立たせることが可能になるなど、補聴器の性能は飛躍的に進化したと言えます。

 デジタル補聴器の優れた点は、主に以下の4点にあると思われます。各機能にも関連性がありますので順に解説していきたいと思います。

きめの細かい調整が可能

 音波は物質中を伝わる波動です。
私たちが聞いている音というのは、(普通は)空気中を伝わってくる波動です。波動ですから振幅があり、振幅数(周波数)の違いは音の高さの違いになります。補聴器が増幅する音の範囲はおおよそ200Hzから5000Hzの音です。
 10年ほど前の補聴器(もちろんアナログです)は、この広い範囲の音をひとつのアンプ(増幅器)で増幅していました。その後、低い音と高い音に2つのチャンネルに分離して、別々の回路で増幅する2チャンネル補聴器が登場します。
デジタル補聴器ではさらに多チャンネル化が進み、音を非常に細かい周波数帯に分離して個別にコントロールすることで、きめの細かい調整が可能になり、より使用者の環境に合った音質を提供できるようになりました。

 また、多チャンネル化は騒音下での言葉の聞き取りの向上にも効果があります。特に後で紹介する自動音量調節や騒音抑制といった機能に密接に関係してきます。

自動音量調節

 補聴器がデジタル化されたことで、面倒な音量調節ツマミの無いボリュームレス補聴器が増えてきています。
アナログ補聴器にもボリュームレス補聴器はありましたが、デジタル技術により、よりきめ細かく正確に音量調節が可能となりました。
 一般的に感音難聴ではダイナミックレンジ(可聴範囲)が非常に狭くなる現象があります。 小さな音が良く聞こえるように増幅するだけでは、大きな音は大きくなり過ぎて、不快感を感じたり、耳を痛めることもあります。 小さい音から大きな音まで、ダイナミックレンジの中に収まるようにするためには、 出力制限装置で音を圧縮する必要があります。
 従来のアナログ補聴器では、主にリニア方式と呼ばれる増幅方法で入力音を一定に増幅していました。
たとえば40dBの入力音に対して30dBの増幅を加えて70dBの出力音、
80dBの入力音に対しても30dBの増幅を加えて110dBの出力音、という具合です。
そして、ダイナミックレンジを越える大きさの出力音が出てしまう場合には、PC方式の出力制限装置やAGCと呼ばれる利得調整装置が働いて出力を抑える仕組みでした。ダイナミックレンジを越える音だけに強く抑制を働かせるために、音が歪んだり、音がフワフワと不安定に揺れたり、と決して聞き良い音ではありませんでした。

 現在主流になっているデジタル補聴器では、ノンリニア方式と呼ばれる増幅方法が多用されます。
上記の例に当てはめますと、
40dBという小さな入力音に対して30dBの増幅を加えて70dBの出力音を得るのは同じでも、
80dBの大きな入力音に対しては10dBの増幅しか与えず出力音を90dBに抑える、
という仕組みで音の歪や揺れといった不快感を感じないように出力音を調節しています。
(コンピューターの調整によりリニア増幅にも設定できます。)

 さらに最近では、低い音から高い音まで周波数別に幾つかのチャンネルに分割し、それぞれのチャンネルが個別に動作することで、騒音下の聞き取りの向上にも役立っています。
会話中に大きな音が発生した場合、1チャンネルの自動音量調節補聴器では、大きな音がうるさく感じないように全体の音量が下がってしまいます。当然会話音も小さくなり聞き取りにくくなります。
ところが、多チャンネルの場合は、大きな音の周波数帯の音量だけが下がり、他の周波数帯の音量は保持されますので、会話音に与える影響は少なくなります。(会話音と大きな音の周波数帯が重なっていれば同じことですが、案外騒音というのは低い周波数のことが多いのです。)

騒音抑制装置(ノイズキャンセラー)

 デジタル補聴器の登場により、耳障りな雑音(環境騒音)を低減できるようになりました。ただし、誤解がないように補足いたしますが、あくまでも低減であり除去ではありません。
 デジタル補聴器の雑音抑制の仕組みは、現在どのメーカーもほとんど同じです。
人間の話し声を詳しく解析しますと、特有の波形が検出されます。これはスピーチシグナルと呼ばれており、デジタル補聴器は入力音の中からこのスピーチシグナルを探し出します。ここで前述のチャンネルが重要な意味を持ってくるのですが、スピーチシグナルの検出されるチャンネルは所定の増幅を行い、スピーチシグナルの検出されないチャンネルは増幅を抑える、という形で周囲のいろいろな雑音の中から会話音を浮き上がらせて、聞き取りやすさを実現させているのです。
当然のことですが、チャンネル数が多ければ多いほど、騒音抑制効果は高くなります。
(メーカーによっては、入力音に対して騒音の軽減に効果がある一種の音響フィルターをかけた上に、上記の方法で雑音抑制を行っている場合もあります。)

 中には誤解されている方も多いようですが、入力音の中からスピーチシグナルだけを拾って増幅しているわけではないのです。メーカーのカタログやチラシを見ると、確かに誤解を助長する表現が見受けられますので、早急に改善していただきたいと思います。
さて、入力音の中からスピーチシグナルだけを拾って増幅できるようになったら、雑音抑制装置の能力は飛躍的に向上するかもしれません。しかしながら、仮にそれが技術的に可能になったとしても、決して良い補聴器とはいえません。なぜなら、環境騒音には、たとえ不快でも、生活に必要な情報が含まれている場合が多々あるからです。
電話の呼び出し音、チャイムの音や電子レンジのチンという音、お風呂からあふれる水の音など、聞こえないと生活に不便を来たす音があります。
また、ガス漏れ警報機の音、やかんが沸騰する音、背後から近づいてくる自動車の音、線路の遮断機の音、など身の回りの危険を伝えてくれる音もあります。補聴器をしたせいで命の危険にさらされるようになってはいけないのです。大げさに聞こえるかもしれませんが、実際に近づいてくる列車に気づかずお亡くなりになられる難聴者の事故は後を絶たないのです。

ハウリング防止装置

 補聴器を耳に出し入れする際、あるいは、補聴器と耳との形が合わない場合、ピーピーと不快な音が出ます。これはレシーバー(スピーカー)から出た音をマイクが拾い、それを増幅してレシーバーから出る、それをまたマイクが拾って・・・・・・ということを繰り返すことにより発生します。雑音と並んで補聴器のわずらわしい音の代表です。
 ハウリングを防ぐにはいくつかの方法があります。
1)シェル(型)を大きくして隙間ができないようにしてベント(空気抜きの穴)をふさぐ
2)ハウリングを起こす周波数帯(主に高音域)の利得(増幅度)を落とす
3)ハウリングを起こす周波数にのみフィルターを掛け出力を落とす
4)ハウリングに対して逆位相の音を与えて相殺する
などです。
従来のアナログ補聴器では、1)2)の方法と、ごく一部ですが4)の方法が用いられていました。
しかし、1)の方法では出し入れがキツくなり耳が痛くなりやすく、ベントをふさぐことで低い音や自声が篭り、聞き取りが悪くなる傾向にありました。
2)の方法では、高音域の利得が下がるために、言葉の聞き取りに悪影響を与えます。
4)の方法は、ハウリング防止装置の作動音が大きく、逆にノイズとなって聞こえてしまう、という現象が起こり、一般的にはなりませんでした。
 現在のデジタル補聴器では、2)と4)の手法も用いられますが、3)の手法が主に利用されています。固定式のものと、ハウリングが発生したときのみに、非常に狭い周波数帯域にだけナローバンド(狭帯域)フィルターが作用する自動式のものがありますが、聞き取りに与える影響が極めて少ない自動方式を採用した機種が一番性能に優れているようです。
また、4)の方式も改良され、難聴者には聞こえないレベルにまで作動音は小さくなってきました。

 

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